
棚引く雲に凪ぐ海。
日も高く登ろうかという時刻に
一匹の人魚が砂浜にやってきていた。
「はぁ・・・。」
深くため息をつくと、虹色の髪をかき上げる。
人魚には憂鬱なことがあった。
それは近々迫っている誕生日のこと。
人魚の世界には18歳になったら世界中の海を周る、という習慣があった。
しかし人魚が暮らす海なんてものはどこも暗くて冷たいのだ。
せいぜい先輩人魚から人魚のしきたりについて
嫌という程、説明を聞かされるだけだろう。
人魚には夢があった。
それは地上を旅すること。
沈没船の絵で見た、限りなく多様性に富んだ世界。
海と同じくらい、広くて、そして高い。
考えれば考える程、自分のいる世界が灰色がかったように感じる。
「もし私が人間だったなら・・・。」
太陽が雲で影る。
髪から滴り落ちる水滴が冷たく感じるようになってきた。
人間に見つかる前に、早く海の底へ戻らなければ。
そうして人魚は帰って行った。